——今回、映画館大賞・特別部門「あの人の1本」で、阪本監督に昨年最も気になった作品として『ポチの告白』を選んでいただきました。まずはその選定理由から教えてください。阪本 社会性を帯びた作品である種の反権力を表現する場合、ドキュメンタリーではなく劇映画としてできることは何だろうと考えると、それは技術だったり、俳優さんの存在の大きさだったりします。僕はこの映画を菅田俊さんのスター映画として観ました。他の役者さんたちも皆、与えられた設定の面をしているんですよ。物言いや歩き方も。そこに感銘を受けました。作り手が志や思想に頼って自分の思いだけで突っ走ると、お客さんがついてこれない。劇映画として挑戦する力がないと駄目だ。そう思っていた時にこの映画を観て、とても楽しめました。
高橋 恐縮です。実は僕、デビュー作が92年の日本映画監督協会新人賞にノミネートされて、平山秀幸さんが『ザ・中学教師』で受賞された年なんですけど、阪本監督が審査員だったんです。またそのデビュー作のキャメラマンが、阪本監督が助監督時代に撮られた短編のキャメラマンで。そんなこともあって、遠巻きながらもずっとすごい方だと思っていたので、まさか今回選んでいただけるとは……。
俳優さんとのコミュニケーションに関して言うと、僕の映画はリハーサル期間が長くて、3、4ヶ月間かけています。まあ大半は飲んでいるんですけど。そのうちに刑事一課(のキャスト)だけで飲みに行くようになったりして、そういう“ごっこ”を続けているうちに、キャリアのある俳優と新人の差が縮まっていく。もちろん他所の仕事では差は歴然と出るんだろうけど、長期間の時間の共有でウチでは、プロとアマの差が縮まっていくんです。
——最初から菅田さん主演で撮るつもりだったそうですね。
高橋 以前から会うと立ち話するような仲で、ずっと一緒にやりたいと思っていたんですけど、あの人の場合、脇役でも目立ちますからね。完全に主役を演じてもらう時までとっていたんですよ。今回は最初からアテ書きで、ディスカッションを重ねながら作っていきました。うちはリハーサルが長い分、撮影は早いんですけど、現場では菅田さんにおまかせしていましたね。演出家でもある菅田さんは、若い俳優さんたちに慕われていますから、撮影中は彼らをまとめてもらったり。一俳優というより、一映画人、作り手側として関わってもらった感じがします。
——菅田さんは阪本監督の『カメレオン』(08)にも出演されています。
阪本 (製作の)黒澤満さんに「菅田さんはどうだろう」と提案された時は、あの強面、体躯の大きさからくる先入観で「えっ、あの怖い人ですか?」と言ったんですけど、お会いしたらすごくいい人でした(笑)。『ポチの告白』の冒頭で見せる、腰の低い「はい」という物言い、あのまんまですね。あの「はい」は、段取りで言っているんじゃなくて、ストレートに本心から言っている感じがする。すごく好きになって、去年の暮れに撮った作品にも来てもらいました。
——ここで、今回、映画館大賞に投票している映画館からのコメントを紹介したいと思います。『ポチの告白』を上映した新宿のK’s Cinemaの方からいただいたコメントです。「警察内部の腐敗を描いた『ポチの告白』。短髪・体格の良い方、妙に眼つきの鋭い方が多くご来場。ロビーにおける携帯電話でのその方々の会話は、あまりにもハードで、ここでは書けません」。高橋監督にお伺いします。表には出ない題材を扱ったことで、危ない目に遭われたことは?高橋 映画を作る過程で危ないことですか? 僕は阪本さんとは違ってまったくのインディペンデントで、ずっと自主映画をやってきたので、危ないのは債権者に見つかることぐらい(笑)。別に内容で追われたことはないし、あったとしてもそれが何か?という感じです。
——撮影は2004年から2005年にかけて行われたとのことで、公開までに時間が空いていますが、何か圧力をかけられたりは?
高橋 あれば格好いいんですけどね。なかったです。映画が出来上がってから、警察側の意見を聞きたいと思ってDVDを撒いたんですよ。そうしたらそれを違法コピーしたものが大量に出回って。警察官なのに(笑)。100人以上が観たらしいです。(結局、何もなかったのは)圧力をかける対象ではなかったということですね。ドキュメンタリーなら話が違ったと思います。昔、『山谷(やま)—やられたらやりかえせ』(85)という山谷の記録映画があって、監督が2人殺されています。昔といっても戦後の話ですよ。彼らはフィルメーカーというよりは、運動のひとつの方法論として映画を使っていたので、ヤバいと思われたんでしょうね。僕の場合は劇映画で、それもメジャーな監督じゃないからか、相手にしてもらえませんでした。ただ、いくつかの映画館に警察署から「これを上映するつもりなのか」と電話がかかってくるようなプチ恫喝はあったみたいです。自主規制で上映を取りやめたところもありますけど、(圧力に応じなかった)黄金町のジャック&ベティなどではアンコール上映まで行いました。
——阪本監督はそういった妨害や圧力を受けた経験はありますか?
阪本 金大中の拉致事件を描いた『KT』(02)の時に尾行されたことがあります。劇映画を作っていて尾行されるのはちょっと異様というか、慣れていないので気持ち悪かった。ほかほか弁当を買いに行く時も、後ろについているんですよ。
高橋 何を注文したか報告されてますよ(笑)。
阪本 『闇の子供たち』(08)の撮影では、以前ドイツの映画人が同じテーマで撮ろうとして銃で脅されたことを資料で読んでいたので、地元のタイのジャーナリストと組んだり、非番の警察官を雇ったりして、危険があれば先に察知できるようにしていました。役者にも普段泊まるようないいホテルではなく、スタッフと同じところに泊まってもらって。僕は覚悟していても、他の人間に何かあったら困るので。結果的には何事もなく帰ってきましたけど。
——タイでの上映は?
阪本 タイではまだ公開していません。タイバージョンも作って、アプローチはしているんですけど、(現在のタイは)あの状況ですし。ただ、圧力ということじゃなくて、必ずいると思うんですよ。「これは嘘だ」と言う人が。
——東京以外の地方での上映についても伺いたいのですが、高橋監督は最近では高知のあたご劇場でトークを行われたそうですね。
高橋 『ポチの告白』を撮ってから、警察の腐敗を告発する市民オンブズマンから呼ばれることが多いんですけど、中でも高知は高知白バイ事件という有名な冤罪事件の地元ということもあって、反警察の代表的な人たちのスピーチがあったんです。その情報が事前に警察に行きまして、当日は映画館のまわりをパトカーがグルグル回っていました。ただお客さんは、社会問題に関心があるというより、タブーを見たくて来ている人も多いと思いますね。怖いもの見たさというか。映画ってそういうものじゃないですか。市民オンブズマンの皆さんが普段やっている活動もすごく大事ですけど、劇映画、それも顔を認知されている俳優さんたちが出ている映画だから伝えられることもある。地方の人のほうがそういうものに対して鋭敏というか、イベント的に盛り上がる気がしますね。情報があふれている東京だと埋もれてしまいがちですけど。
阪本 『闇の子供たち』の公開時に声をかけてくれたNGOもほとんど地方の団体でしたね。(NGOの人には)僕はまず最初に「劇映画の監督として自分の考えを言うことはできるけど、皆さんのように長年の活動の中で培ったものがあるわけではない。あくまでオファーを受けてにわか勉強をして撮った人間なので、運動に与する自信はありません」と言いました。「ドキュメンタリーでやったほうが良かったのでは?」とよく言われましたよ。でも、ゴミ置き場に捨てられた女の子がゴミ袋を破って故郷に帰っていくまでをドキュメンタリーで撮ることは僕にはできない。それをできるのが劇映画。劇映画だからこそできることに自信を持ってやっていきたいですね。高橋 まったくその通りです。ただ現実の人の応援は力強いもので、『ポチの告白』は観た人たちからよく「いくら何でもこれは嘘でしょ」と言われるんですけど、元愛媛県警の仙波敏郎さんという、一度も裏金領収書を書かなかったために昇進できなかった方が「この映画の内容はすべて事実です」と言って応援してくれたんです。それどころか「高橋さんは品がいいからすごくきれいに描いています」とまで言われて。実際はどれだけ酷いんだって話ですけど(笑)。作り手としては、そういった現実、本物とのリンクが面白いですね。僕は阪本先輩の作ってこられたものをずっと観ていて、『どついたるねん』(89)もドームで観ているんですけど、赤井英和という素材はまさしく本物でした。映画作りのアプローチが似ているんじゃないかと思っていたので、今回選んでいただいてすごく嬉しかったです。
——そろそろ時間になりましたので、最後にお二人の近況などをお願いします。
阪本 僕が映画監督になるきっかけを作ってくれた親戚のおじさんがいて、その人の言葉がなかったら僕は映画監督になっていなかったという恩人なんですけど、大阪府警の刑事だったんですよ。だからこの映画を観た時、複雑な思いがありました(笑)。(近況としては)『座頭市 THE LAST』が公開されます。時代劇なのでバジェットは大きいですけど、作風はこれまでと何も変わっていないので、是非観に来てください。
高橋 実は僕も警察官と映画監督の孫なんですよ。父方の祖父が警察官、母方の祖父が東映動画の薮下泰次で、映画屋と警察官の孫がこういう映画を撮ったというオチになるんですけど。今、『ポチの告白』はいろんな国に呼ばれているんですけど、日本では僕はこういう映画を撮った危ないヤツということで、巻き添えになりたくないと思われているというか、いろんな会社が警察の天下りを抱えているんで……皆様にご迷惑をかけちゃいけないので、現在は外国からのオファーが何件か来ていますし、外国での活動を中心にしていこうと思っています。
——ありがとうございました。
(聞き手:映画館大賞実行委員会・杉原)
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阪本監督の最新作『座頭市 THE LAST』は5月29日より全国ロードショーです!公式サイトはこちら
『ポチの告白』は7月22〜25日にトロントで開催される「SHINSEDAI CINEMA FESTIVAL」でも上映される予定。5月現在、HPではラインナップがまだ発表されていませんが、とてもユニークな映画祭のようです。