~映画批評~

【映画館主は二度ベルを鳴らす】第2回:『イントゥ・ザ・ワイルド』

全国の映画館主・支配人による、忘れられない1本をめぐるリレーエッセイ。第2回は、岩本一貴支配人のイチオシ作品を明確に打ち出している情報発信型のミニシアター・福山のシネマモード1/2から。

テキスト:福山・シネマモード1/2 岩本一貴

2008-12-17 UP

イントゥ・ザ・ワイルド

 今、当館が目指しているのは、私が「この作品オススメ!」と言えば、シネコンでは上映しないような小規模公開の作品でも、採算が取れるだけのお客さんが来てくれる状態です。

 シネコンがどんどんミニシアター系作品を取り込んでいる現状では、かつての『アメリ』や『ピンポン』のようなミニシアター発のヒット作が生まれることはなくなりました。『ぐるりのこと。』や『歩いても歩いても』のような手堅い作品もありますが、屋台骨になるほどの本数はありません。そのような状況下では、劇場独自のヒット作を生み出す情報発信力が不可欠だと考えています。

 そこで当館では、08年3月より私のオススメ作品を明確に打ち出した告知を始めました。これまでにオススメ作品として上映したのは『ダージリン急行』『やわらかい手』『シークレット・サンシャイン』など。

 先日(12/6)、封切った『イントゥ・ザ・ワイルド』もその一本で、1992年にアラスカの荒野で餓死しているところを発見されたクリス・マッカンドレスという名の青年を描いたショーン・ペン監督作品です。

 父親の母に対する暴力や、両親の嘘によって、傷つきながら成長したクリスは、孤独を愛する繊細な青年に成長し、大学卒業後は放浪の旅に出ます。旅の中で、アウトサイダーたちや孤独な老人と交流をもった後、ついに憧れのアラスカの荒野にたどりつく。荒野で、たった一人の最期の日々。そこで彼が発見した人生の真理は“幸福とは、それを分け合う人がいてこそなんだ”ということ。しかし、あやまって有毒性の植物を食べてしまい、衰弱してゆく彼はもう“幸福を分け合う人”に出会うべく社会に戻ることはできない。大変、皮肉で理不尽な物語です。

 しかし、ショーン・ペン監督は、ささやかだけれども確かな“救い”をラストに用意しています。

 私は、オススメ作品に関しては、ポップ、PR紙、ブログ、メール配信等で、なるべく私自身の肉声を届けています。けれども、告知でネタバラシをするわけにはいかない。そこで、オススメ作品の上映後に“この作品のどんなところに魅力を感じたのか”を5分ほどお話しします。解説というレベルではありませんが、セリフや映像などのディテールから監督の意図を能動的に読み取り、より深く映画を味わう楽しさを広めることが狙いです。

 幸いなことに『イントゥ・ザ・ワイルド』は、私の予想より少し多めの集客でスタートしました。

 さて、この連載のサブタイトルは“館主人生で忘れられない、あの一本。”ですが、過去を振り返っている余裕がないので、今、上映している作品の話になってしまいました。ご容赦ください。

『イントゥ・ザ・ワイルド』

2007年アメリカ/監督・脚本:ショーン・ペン/原作:ジョン・クラカワー「荒野へ」/出演:エミール・ハーシュ、ハル・ホルブルック、キャサリン・キーナー、ウィリアム・ハート、ヴィンス・ボーン
全国にて公開中 公式サイト http://intothewild.jp/
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シネマモード1/2……シネマモード1(190席)2(50席)の2スクリーン。福山市の映画館は、ここ4年で7スクリーンから24スクリーンに急増している。その中に埋没しない映画館づくりを模索中。公式サイトhttp://www.furec.jp

支配人 岩本一貴……1967年生まれ。18歳で観た『ストレンジャー・ザン・パラダイス』にヤラれて以後、観るのも上映するのもミニシアター作品中心の日々。最近はそうれもどうかと思い、クラシック作品などに視野を広げている。映画検定試験2級(主催:キネマ旬報社)を取得。