~映画批評~

【マイ・フェイバリット・カット】第3回:松江哲明『デコトラ★ギャル奈美』

気鋭の作り手・書き手が偏愛する映画の最愛の場面を語り尽くすこのコーナー。ドキュメンタリー監督・松江哲明のそれは、デコトラという過剰な装飾がファンタジーにまで昇華される『デコトラ★ギャル奈美』のラスト!

文:松江哲明

2009-01-28 UP

デコトラ★ギャル奈美

 マイ・フェイバリット・カットはラストカットが多い。映画のテーマがビシッと決まってその画に集約されるような、出来れば高揚感があったりなんかして、思い出す度にニヤニヤしてしまう…。例えば『悪魔のいけにえ2』のチェインソーダンスとか、『キッズ・リターン』の「バカヤローまだ始まっちゃいねぇよ」とか、『ポリス・ストーリー/香港国際警察』のジャッキーの絶叫とか。最近だと『デコトラ・ギャル奈美』。ジャケットを見るとデコトラの前でヤンキー座りをしたAV女優吉沢明歩ことアッキーが睨みを効かせてせる。ほとんどの女子だったらビビって手にしないようなオサレからかけ離れたビジュアルだけど、僕は昨年最も泣かされた「映画」。きっとビデオ屋さんでもAVのノレン近くにあるエロVシネコーナーにちょこんと置かれる「だけ」に違いないし、「ドン・キホーテ」なんかでは暴走族ドキュメンタリーと一緒に並べられる可能性もある。けど僕はエッチに興味津々な童貞男子にだって、「なんかタリィしぃ~」なんて狭い店内を歩くヤンキーカップルにだって「届く」と確信出来る。

 物語はかなりベタ。伝説のトラッカーを父に持つ「べらんめぇ」口調のアッキーと、彼女に惚れる幼なじみの恋物語。カウボーイハットのライバルトラッカー軍団との「どっちが早く荷物を届けられるか勝負だぁー」なんて追っかけっこをしてたら「貴様らまぁてぇー」なんてパトカーで警察官がおっかけて来て、クラッシュ、「どっかーん」なんて漫画(というか漫画を超えた名作「トラック野郎」)みたいな展開もある。はい、さっきも書いたようにベタなんです。けどそれさえ仕掛けだってことはラストに近づくにつれて分かってくる。ベタや低予算さえ武器にしてしまう演出をナメてはいけない。物語にはトラッカーたちを相手にする流れの娼婦、桃香が加わるのだが彼女の設定がいい。「アイアイサー」が口癖でアッキーからは「うぜえんだよ」なんて怒られてばかりなのだが、彼女には今は離れている子供と一緒に暮らしたいという目標がある。「まじめに生きたい!」という桃香の為にぶつくさ言いながら手伝うアッキーが可愛らしい。しかし、最近の邦画同様、難病という山場が桃香を襲う。

 ありふれたドラマならばここで涙しておしまい…となるんだろうが、本作には「その後」が描かれる。死を受け入れ、残された人はどう生きるべきか。仇を取るべきか、明日に向かって走るべきか、終わらない日常を消化するべきか。否、セックスをするのだ。抱き合い、快感に身を委ね、生と性を実感する。僕はエロというジャンルだからこそ成立し得る、ステキな展開に涙した。僕は昨年、祖母と父と友人を亡くした。立て続けの死に「なんなのさ」とぼやく暇さえなかった。そんな時に無心になれたのが性だった。思えばオナニーばかりしていた。セックスもした。逃げ、とは思わない。それしかなかったのだから仕方ない。

デコトラ★ギャル奈美 しかし本作はさらに劇映画、つまりはフィクションならではのサプライズが待っている。デコトラという過剰な装飾がファンタジーにまで昇華され、奇跡が映し出されるのだ。低予算、ベタ、エロス、童謡、が「どうだ」と一気に押し寄せるラスト。その時「ざけんじゃねぇよ」とツッパっていたヒロインが遂に微笑む。僕は本作を見て以来「キラキラ光る、夜空の星よ」を聞くとアッキーの笑顔を思い出す。ふいに町中で聞いたりするとヤバい。涙腺が刺激されるのだ。過剰なのか分かってる。アホじゃねぇの、とも思う。けどアホになっちゃったんだもの、あのラストを観てからは。

 こんな思い入れしかない文章であなたが「デコトラ・ギャル奈美」を探してくれるかは分からないけど、08年はずっと「奈美、奈美」と言い続けて来た。 だって僕にはそれだけ大切な作品なのに、今もビデオ屋で埋もれたままだから。

 メジャーでもインディーでもいい作品はたくさんあるし、僕だって好きだ。けど生涯に残る一本は「みんながいいよ」と言うものにしたくない。今でしか言えない、書けない、推せない作品はきっとあるはず。そういう作品との出会いを求める飢餓感みたいなものはなくしたくない。

『デコトラ・ギャル奈美』はそんな気持ちを再確認させてくれた。

『デコトラ★ギャル奈美』

2008年日本/監督・脚本:城定秀夫/出演:吉沢明歩、今野梨乃、吉岡睦雄、松浦祐也、中村英児、なかみつせいじ、森羅万象、ホリケン。、稲葉凌一、野上正義/GPミュージアムソフトより3990円で販売