~映画とカルチャー~

【サントラ道】第1回:サエキけんぞう『イージー・ライダー』

音楽の達人がお気に入りサントラを論じるエッセイ第1回、サエキけんぞうが選んだのは、60年代末ロック革命のオールスター・ヒッツともいうべき『イージー・ライダー』。全編に満ち満ちた不思議なカオスの正体とは?

文:サエキけんぞう(ミュージシャン)

2008-09-26 UP

イージー・ライダー サウンドトラック数あれど、どれか一枚を選べといわれたら、ロック好きな僕は『イージー・ライダー』を選ぶしかないだろう。1960年代、ビートルズに始まる、サイケデリックなロックの爆発、その光と影を描いた、アメリカン・ニューシネマの代表作には、革命の始まりと、そして終末も暗示させる不思議なカオスが感じられる。

 ピーター・フォンダのチョッパー仕様バイクの爆走による、強烈なオープニングと、唐突に痛いラストを筆頭に、様々なシーンを巡らせる曲の数々は、1969年という「ウッドストック」の開催されたロックのブレイク期を象徴して余りある名曲の数々だ!
なんとっても冒頭にかかるステッペンウルフの「ワイルドで行こう」だ。この疾走感!映画を見た当時の若者達は、何人もが直ちにバイクを買い、日本の国道を放浪の旅に出たと思われる。そうした投書が、深夜放送にあふれていた。そんな若者の頭に100%鳴っていたとはずなのが、強烈な疾走感を備えるヘヴィーなこの曲。

 今気づいたのだが、オルガンの不穏なソロを中盤に持つこの曲、何かに似てないだろうか?ハードロック造りだしたディープ・パープルの「ハイウェイ・スター」(1972年)だ。テンポ感もソロのノリもかなり似ている。69年当時、まだハードロックやヘヴィメタルといった分野は発生してなかったが、ひょっとしたら、この曲はそういったジャンルの親なのかもしれない。この60年代末の予言的なサントラは、そういった発見ももたらしてくれる。

 エンド・テーマ曲ともいえるザ・バーズの名曲「イージー・ライダーのバラード」は、心打つ名曲だが、これは同じくアメリカン・ニューシネマの代表作「真夜中のカーボーイ」(1969年)の主題歌、ニルソンの「うわさの男」に似ている。フレッド・ニールのカヴァーのこの曲は、ボブ・ディランを含む数人への依頼の末、競われて勝ち取られた主題歌。60年代のフォーク・ブームに始まったアメリカの若者ムーブメントは、こうしてホロ苦いフォークロック「うわさの男」と「イージー・ライダーのバラード」として、ムーブメントのオマージュとして響いていた。が、何とも因縁深いのだ。

 同じく優しさに満ちたザ・バーズの「ワズント・ボーン・トゥ・フォロー」も忘れられない名曲。キャロル・キングのようなベテラン作家の名曲が、洗練されたサウンドでロック化されているのもこの時期のヒットの特色。60年代前期の、優秀な作家によるポップス黄金時代の匂いが、サイケデリックの中に残り香を残しながら消えていくのが、何とも切なくて甘酸っぱい。

 それでは、どんな革命が起こっていたのか?といえば、ドラッグ・シーンのグワングワンな映像に重なるジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスの「イフ・シックス・ワズ・ナイン」を聴けばわかる。トリップの無重力感と、新鮮で巨大なヘヴィーさを兼ね備えたこうしたニュー・ロックが、若者を後には戻らない道へと向かわせた。

 こうして、ヒッピームーブメントの中、すべてが塗りかえられていった勢いが、この映画では感じられる。そしてラストで見られるような傷跡を残していく。

 サントラ盤ではスミスのバージョンに差し替えられている、ゴスペルチックなザ・バンドの名曲「ザ・ウェイト」も文句ない1969年を代表するロックのクラシック。60年代末の乱世をフカンし、虚無感を包み込み、若者を現実に向かわせる強さを持っている説得力あふれる歌詞とメロディー。こんな名曲を、アメリカがサブプライムでグチャグチャになった今聴きたいし、僕はそんな曲を作りたいと夢想してしまうのだ。

 なお、2004年に発売されたデラックス・エディション2枚組では、オリジナルのザ・バンドのバージョンに戻し替えられるのみならず、2枚目には、ヤングラスカルズの「グルーヴィン」、ヤングブラッズの「ゲット・トゥギャザー」など19曲が網羅されていて、69年頃のロック革命のオールスター・ヒッツとなっている。こんな盤が企画されるところが、『イージー・ライダー』がロックのバイブルになっている証拠なのである。

『イージー・ライダー』

1969年アメリカ/監督:デニス・ホッパー/脚本:ピーター・フォンダ、デニス・ホッパー、テリー・サザーン/出演:ピーター・フォンダ、デニス・ホッパー、ジャック・ニコルソン

DVD 『イージー・ライダー』(ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント/税込2990円)
CD『イージー・ライダー オリジナル・サウンドトラック』(ユニバーサル インターナショナル/税込1835円)