最優秀作品賞…『バシールとワルツを』
審査員特別賞…『木のない山』、『サヴァイバル・ソング』
でした!ご存知の方も多いでしょうが。拙作『PASSION』は受賞とはなりませんでした。
受賞結果、もちろん残念ではあるんですけれども、ただ、今回フィルメックスに通い続けた一観客として、この結果は大いに納得のいくものでありました。『サヴァイバル・ソング』こそ見られなかったものの、『バシール』『木のない山』といった素晴らしい作品に賞が行ったことが何より喜ばしいことですし、これもまた今年のフィルメックスの大きな成果だと思います。『PASSION』が、この素晴らしい映画祭のラインナップの一翼を担えたことを誇らしく思いますし、このような適正な審査の結果「選ばれない」ということがむしろ、大いに励みになりました。また映画祭を目指す、ということでなく、より研ぎ澄ませた作品を作らなくては、作り続けなくては、という思いを新たにしています。
皆さん、こうした受賞結果を、監督や製作者がいつ知らされるのか、気になるかも知れません。僕の場合は、林ディレクターに閉会式より前の上映を観に来た際、そそっと手招きされ(この時、何も期待しなかったかどうかは、聞かないで頂きたい!)自分の作品に関する結果だけ知らされました。これは「閉会式でドキドキしないよう、がっかりしないよう」という林ディレクターの心遣いだったのかも知れず、全ての監督にこうした連絡が為されているかはわかりません。では、受賞者は一体いつ知るのか…。それは、僕にもわからないのです(笑)。
『デルタ』上映後、クロージングのパーティーに出席。赤と黒のボーダー(フィルメックス制服)を脱いだボランティア・スタッッフの皆さんは何だか随分若々しくって、まぶしかったです。『PASSION』の感想ももらったり。何だか感情的な感想を沢山頂きました。ありがたいことだなあ、と思います。皆さんの御蔭ですホント。『木のない山』のソヨン・キム監督を見かけて質問攻めにする。キモがられなかったかしら。可愛らしい、芯の強そうなお母さんだった。是非、日本公開が決まるといい。
フィルメックスからは、こうして多くの出会いを頂きました。この場を借りて、素晴らしい機会を与えて頂いた市山・林両ディレクター、具体的にアテンドして頂いた岡崎さん、森宗さん、湯川さん、そして全てのフィルメックス・スタッフと観客に御礼申し上げます。どうもありがとうございました!10年目も素晴らしいフィルメックスでありますよう。
さて、映画祭に監督として、観客として参加して、改めて思い知ったことは、いつの時代も、どこの国でも変わらぬ映画作りの困難さだった。映画祭、特にフィルメックスのような「ガチンコ」の映画祭は、言ってみれば、世界映画の最前線で繰り広げられている闘いを見る機会でもある。「圧倒的に正しい映画」に至る道筋は、簡単には見当たらず、多くの映画が憤死し、死屍累々が築かれる。僕が見たのは、そこでぶちまけられる「映画たちのはらわた」だった(そこにはもちろん自作も含まれる)。この道が正しいか、誰も知らない。それでもそれを踏みしめて、進まねばならない。映画の未来へと。
取ってつけたように、タイトルに言及して、この雑記も終わる、のである。
おまけ
さて、「寝る映画はいい映画」と言いましたが、決して単に寝てしまう自分の自己弁護ではありません(いや、それはもちろんそういうところもありますが)。経験からかんがみて、寝てしまう理由として3種類ぐらいあると思います。
1、 睡眠不足である
2、 事前に何か食べた(脳に血液が回らない)
3、 映画の「情報」が、頭に入って来ない
1や2は基本的には、真剣に映画を見ようとするなら論外かもしれません。ちゃんと体調とスケジュールを管理しろ、と。ええ、その通りです(でもまあ、ままならぬこともありますし)。問題は3です。人は「映画を見ていて寝てしまう」のは「映画がつまらないから」と誤解しがちですが、決してそうではないです。大概のハリウッド映画で寝にくいのは、単に時間当たりに供給される物語「情報」の量が適正だからであって、それが観客を寝かさない(「つまらない」と言わせない)法であることを製作者側もわかって作っているのです。
情報量が膨大であるからにせよ、希薄であるからにせよ、情報処理に失敗し、脳に信号が入らなくなって来た時、人は映画を見ながら寝てしまうのだと思います(PCのスリープにまさに近い)。ただ、ここで一つ言えるのは、映画とは少なくとも、単に「情報」ではない、ということです。「寝てしまう映画」が時に「物語がない」「わからない」映画とされるのは、単に見ていてこうした「情報」を見失ってしまうからですし、そもそも一列の「情報」としてその映画自体が作られていないからです。「情報化」は、本来映画が持っている、目の前の全てを含み込むような力をフレーミングや編集、映画音楽などによって弱めることで為されています。これにある種の手練手管が必要とされるのは、それはそれとしましょう。「寝てしまう映画」とは間違いなく、こうした「情報化」に逆らう、映画本来の豊かさ、原始的な野蛮さを取り戻そうとする映画です。なので、「見る」ことは、これは当然なかなか難儀な体験で、僕も未だにもちろん寝ます。ただ、まどろみながら目の前に広がっている画面を見ると「ああ、いい映画見てるなあ」と思うことが多々あり、これはなかなか至福です。なので、「寝そう」という理由である種の映画を回避せずに、むしろ積極的に「寝に行くぞ」、ぐらいの気持ちで映画館に足を伸ばして欲しいと思います。するとある時、途端に何か目に入って来ることがありますから。いや、もちろん起きて全部見れたら、一期一会の体験として見れたら、それが一番いいんですけど。ただ、そこまで自分に厳しくならずに、映画を見続けて欲しい、いや、自分がむしろ見続けたい、と思うわけです。【終わり】
濱口竜介
はまぐち・りゅうすけ/1978年神奈川県生まれ。自主制作や映画・テレビドラマの演出部を経験した後、2006年東京芸術大学大学院映像研究科に入学。修了制作となる『PASSION』が2008年の東京フィルメックス・コンペティションに選ばれる。
『PASSION』 2008 / 115min. / HD-CAM / Color / 16:9結婚間近の果歩と智也を祝う席上、智也の過去の浮気が発覚し……。男女5人が揺れ動く一夜を描いた群像劇。サンセバスチャン映画祭で上映された。河井青葉、占部房子が複雑な女性像を好演。東京藝術大学大学院修了作品。(東京フィルメックスHPより)
出演:河井青葉、岡本竜汰、占部房子、岡部 尚、渋川清彦
監督・脚本:濱口竜介 製作:藤井智 撮影:湯澤祐一 照明:佐々木靖之
美術:安宅紀史、岩本浩典 録音:草刈悠子 編集:山本良子詳細はこちらをご覧下さい。








