~今、観るべき新作~

【新作レビュー】進化し続けるダルデンヌ兄弟の『ロルナの祈り』

前作『ある子供』のラストには、ダルデンヌ兄弟の「人は変われる」という強いメッセージがあった。では、人は何によって変わるのか。その答えを『ロルナの祈り』は教えてくれる。(井上麻子)

文:井上麻子

2009-01-31 UP

ロルナの祈り

『イゴールの約束』から12年、ベルギーの名匠ダルデンヌ兄弟が長い間撮りたいと思いつづけてきた「若い女性を主人公にした映画」が『ロルナの祈り』として完成した。2008年度カンヌ映画祭脚本賞受賞により、2度のパルムドールを含む4作連続主要賞受賞の快挙を彼らにもたらしたこの作品は、ダルデンヌ兄弟にとって、ある意味で新境地といえるかもしれない。より複雑な物語構成と36mmカメラによる固定ショットの多用、あるいはダルデンヌ作品における初の試みである音楽の使用など、これまでの作品には見られなかった手法が確かに今までの作品とは異なる印象を与える。しかしダルデンヌ兄弟が描く物語は変わらない。「フィクションの方がノンフィクションよりも伝えたいことが伝えられる」という彼らが語りたい物語は、おそらくたった一つかしかないからだ。

社会に見捨てられた人々の厳しい現実を描いてきたダルデンヌ兄弟が今回主人公に選んだのは、ベルギーで国籍を得るために偽りの結婚をするアルバニア移民の女性ロルナ。偽りの結婚生活のなかで葛藤し、少しずつ変化していく一人の女性の姿をこれまで同様真摯に見つめる。

父親に反抗しながら自分の人生を選びとる少年(『イゴールの約束』)、“まともな”生活をするために仕事を探す少女(『ロゼッタ』)、息子を殺した少年を受け入れようとする父親(『息子のまなざし』)、お金のために自分たちの子供を売ってしまう若いカップル(『ある子供』)、そして夢を叶えるために偽りの結婚をする移民女性。ダルデンヌ作品の主人公たちに、社会の中心にいるような人間は一人もいない。みんな社会の片隅に追いやられ、やがて社会から忘れ去られてしまうような人たちばかりだ。それでも彼らは必死に自分たちの人生を生きている。もがきながら、彼らなりに闘っている。その彼らに一つの“救い”ともいえる答えを示したのが前作『ある子供』だった。この作品のラストには、ダルデンヌ兄弟の「人は変われる」という強いメッセージがある。では、人は何によって変わるのか。その答えを『ロルナの祈り』は教えてくれる。

偽りの生活のなかで、それでも一人の男を救いたいと願うようになり、やがてはそれが罪悪感に変わる。罪悪感を抱くことで、ロルナはより人間的になっていく。そしてそれまでとは違う人生を生きようとする。「映画」という自分たちの作品世界で、社会に見捨てられた人々にその機会を与えることこそ、ダルデンヌ兄弟が映画を作りつづける理由なのではないだろうか。

ダルデンヌ兄弟の作品は面白い。映画そのものが面白いのはもちろん、それぞれの作品の持つ“意味”が面白い。その面白さは、彼らの一連の作品を通して見ないとわからないかもしれない。『イゴールの約束』『ロゼッタ』『息子のまなざし』の主人公たちを、『ある子供』で導いた「人は変われる」という真実によって救済したダルデンヌ兄弟は、さらにその先の答えを『ロルナの祈り』で観客に提示する。次に彼らが見せてくれるものは何なのか。次回作が待ち遠しいというのは、まさにこういうことだ。

『ロルナの祈り』

2008年ベルギー=フランス=イタリア/監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ/出演:アルタ・ドブロシ、ジェレミー・レニエ、ファブリツィオ・ロンジョーネ/105分

恵比寿ガーデンシネマほかにて公開中
公式サイト http://lorna.jp