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【新作レビュー】女優が記録した妹の変貌『彼女の名はサビーヌ』

身内なら隠したいような姿も、姉である監督は写し撮るが、妹を「かわいそうな人」として撮っているのではない。時にはユーモラスな面もとらえ、どんな時でも妹を慈しむ気持ちが画面に沁みこんでいるのだ。(片岡真由美)

2009-01-31 UP

彼女の名はサビーヌ

女優の姉よりも美しかった10年以上前の映像が、38歳の現在の姿の合間に挿入される。その変貌ぶりに愕然とし、胸を衝かれる。女優サンドリーヌ・ボネールが1歳違いの妹を映したドキュメンタリー映画は、自閉症者のケアについて考えさせると同時に、姉妹愛の深さに胸打たれる秀作。カンヌ国際映画祭監督週間で国際批評家連盟賞を受賞した。

1967年、11人兄弟の7女に生まれたサンドリーヌは、83年の『愛の記念に』で16歳の奔放な少女を演じて注目され、日本でもパトリス・ルコント監督の『仕立て屋の恋』(89年)や、最近ではフィリップ・リオレ監督の『灯台守の恋』(05年)の人妻役が記憶に残る。華やかさよりも知的で堅実なイメージの濃い女優であり、ウィリアム・ハートとの間に娘がひとりいることでも知られる。

1つ下の妹サビーヌは、幼い頃から特別なケアを必要としてきた。時に感情のコントロールがきかなくなる彼女は、だが、両親も兄弟姉妹も専門医に診せるほどのこととは考えなかったのだろう。中学校は普通学校に通ったものの、すぐに同級生から「バカ・サビーヌ」と呼ばれ、学校には行かなくなる。とはいえ、ピアノを習えばすぐにバッハが弾けるようになるし、芸術的才能が豊かで、陽気で美しく、大家族の中で愛情をいっぱいに受けて成長した。

かつてサンドリーヌが8ミリ・カメラで映した20代のサビーヌは、モデルのようにほっそりして、長く伸ばした髪も光り輝くようだし、透きとおるように白い肌に大きな茶色の目が愛くるしい。憧れのアメリカに旅行した時には「外国人になるのって初めて」とカメラに語りかけ、海岸では大はしゃぎで走り、跳びはねる。障害があるとしても、ごく軽度にしか思えない。

そして現在。ボルドーの北に位置するアングレーム近くの保護施設で暮らす38歳のサビーヌは、20代の頃より30キロも太り、自慢の髪は短く刈られ、まったく別人の姿になっている。容貌だけではなく、喋り方も呂律が回らないし、目もうつろだ。

この変貌こそが、サンドリーヌが訴えたいことの一つなのだ。サビーヌは28歳からの5年間を精神病院に入院したが、この5年間が彼女をこんな姿に変えてしまったという。適切な診断もされないまま、大量に薬を処方され、身体能力も低下し、状態はどんどん悪化したのだ。

現在サビーヌが暮らす保護施設は、庭つきの一軒家で、入所者5人に対して指導スタッフが2人。時にサビーヌが物を投げつけたり、自分の手を噛んだりしても、スタッフが根気強く毅然と諭す。入所当初よりはずっと他人とコミュニケーションがとれるようになったというから、精神病院を退院した直後はいかばかりだったろう。

サビーヌ自身にも、指導スタッフにも、多くを問いかけることなく、カメラは日常を撮ることに徹する。カメラを持つ姉に「明日も来てくれる?」と、サビーヌは繰り返し何度も聞く。肯定の返事を聞いても、数分後には同じ質問を繰り返す。姉に対する信頼と愛情とともに、不安感がくっきり浮かび上がる。身内なら隠したいような姿も、姉である監督は写し撮るが、妹を「かわいそうな人」として撮っているのではない。時にはユーモラスな面もとらえ、どんな時でも妹を慈しむ気持ちが画面に沁みこんでいるのだ。

画面に映る保護施設のスタッフは男性1人と女性2人。若くて美男美女でもある彼らの、爽やかで献身的な接し方も印象深い。サビーヌの変貌ぶりと合わせて、人にっとっての外見について、自閉症者のケアということと合わせて、しばし考察させられる作品なのだ。

『彼女の名はサビーヌ』

2007年フランス/監督・脚本:サンドリーヌ・ボネール/出演:サビーヌ・ボネール/85分

2月14日より渋谷アップリンクにて公開 公式サイト http://www.uplink.co.jp/sabine