~今、観るべき新作~

『海角七号 君想う、国境の南』ファン・イーチェン インタビュー

台湾最南端の町で、日本統治時代末期と現代のラブストーリーが交差する『海角七号、君想う、国境の南』。台湾で空前の大ヒットを記録したこの映画の魅力を、主演のファン・イーチェンが語る。

取材・文:藤野眞功 撮影:岩根愛

2009-12-31 UP

#03

——ファンさんご自身のルーツに対する思いを聞かせてください。

ファン 僕は台東で生まれ育ったのですが、子供の頃には周りが原住民の血をひく友達ばかりだったので、いわゆる“台湾人”の中にも多くの文化の違いがあるという事実について意識することはありませんでした。やはり、自分自身の文化やルーツに目を向けさせられたのは台北に出てからです。そこで漢民族の“台湾人”の習慣や文化を知り、故郷の文化とは違う世界があることを実感しました。

——しかし、台湾の歴史上においてはファンさんの祖先でもある先住民族が明らかに長い歴史を持つわけですが、漢民族の文化が幅を利かす台北に嫌悪感や戸惑いはありませんでしたか?

ファン なかなか難しい質問ですが、「違い」について知ることが必ずしも、そのどちらが「正しい」のかという議論を伴うものではないのでは。アミ族やルカイ族、排湾(パイワン)族、漢民族など、現在の“台湾人”には多くの文化と歴史を持つ人々が集まっていますが、それでもかれらは皆「台湾人」なのですから。僕自身は各々の文化を尊重したいと思っていますし、それらの違いを学ぶことに興味があります。日本の文化について学ぶ時にも同じような気持ちでいますよ。

——結末をバラすことになるので詳しくは書けませんが、映画の「その後」について個人的な考えをお伺いしたいと思います。台北でミュージシャンになるという夢破れて故郷の恒春に戻ったアガ(ファン・イーチェン)の一夜の奇跡でひとまず物語は終るわけですが、その後、かれは再び台北に戻りミュージシャンを目指すと思いますか。それとも、恒春に留まる?

ファン そうですねえ。台北に戻って、再び夢を追いかけるのではないでしょうか。僕は、個人的にはそう思いますね。

——その時、アガはかれを庇護する町議会議長には何と挨拶する? 劇中でも、議長は「町の子供たちが親をおいて都会へ出て行く寂しさ」について語っていますが。

ファン 議長はアガに勝手な思い入れがあるかもしれませんが、アガは議長には特別な感情はないでしょう。何も言わずに町を出るんじゃないかなあ(笑)。

——それは意外な答えですね。ファンさんも故郷には戻りたくないのですか?

ファン いえいえ。家族や友達もいますし、僕はすぐにでも戻りたいです。でも、この仕事を選んだ以上、難しいですね。ただし、アガの場合は仕事を切り離して考えても、故郷に対する思いは大きくはないでしょう。これは僕の想像ですが、かれは僕よりもうんと若い時期に台北に行き、大人になってもずっと忘れられないような故郷の思い出が少ないような気がします。だから、台北を憎んでも恒春を愛せないのです。

——次に台湾人と日本人の関係について、一つ質問させてください。
バンドメンバーでもある大大(マイズ)の母親(シノ・リン)が友子に対して『日本人に愛なんて分かるの?』という台詞を投げかけますが、これには両国の歴史に鑑みた上での象徴的な意味合いが込められていると思いますか? それとも、彼女とその母親との個人的な問題だけがあの台詞を生んだのでしょうか。

ファン おそらく後者でしょうね。僕は過去の歴史はその時代を生きた当人にしか語れないと思っています。ミンジュ(シノ・リン)のあの発言は戦争や占領といった台湾を巡る歴史とは関係なく、彼女自身の個人的な感情から出たものでしょう。映画の中では細かく触れられていませんが、彼女には日本人の夫に裏切られた過去があるんです。

——なるほど。確かに映画ではアガと友子の恋愛がフォーカスされ、周囲の人間の関係性はわずかに匂わされる程度です。このあたりは、徳間書店から出版されたノベライズ版『海角七号』を読むと、よく理解できますね。

ファン 映画を観て、それから小説を読んでもらえれば、恒春の風景やそれぞれの登場人物が蘇り、『海角七号』の世界をより深く楽しんでもらえると思いますよ。

『海角七号 —君想う、国境の南—』
2008年台湾/130分
ミュージシャンになる夢に破れ、台北から故郷の町に戻ってきたアガは、60年前の敗戦時に日本人教師が台湾人女性に宛てたラブレターを発見する。一方、日本人アーティスト中孝介のコンサートを開催するために町にやってきた友子は、地元の人々を寄せ集めた前座バンドの世話をすることに。二人の出会いはやがて60年前の恋の物語と交差し……。
監督・脚本:魏徳聖(ウェイ・ダーション)
出演:范逸臣(ファン・イーチェン)田中千絵、中孝介、林暁培(シノ・リン)、梁文音(レイチェル・リャン)
配給:ザジフィルムズ/マクザム
12月26日よりシネスイッチ銀座、梅田ガーデンシネマほか全国順次公開
公式サイト http://www.kaikaku7.jp

#05ファン・イーチェン(范逸臣) Van 1978年生まれ。台湾原住民であるアミ族の血をひく。ミュージシャンとして活躍し、『海角七号 君想う、国境の南』が初の出演映画となる。02年、ファーストアルバム「范逸臣」をリリース。『猟奇的な彼女』の中国版主題歌「I Believe」で一躍注目を浴びる。その後、アルバム「信仰愛情」(03)、「愛情程式」(04) を発表、バラードの王子の異名をとる。本作の挿入歌「国境之南」で第45回台湾金馬奨 最佳原創電影歌曲獎受賞。08年ベストアルバム「無楽不作」発表。08年12月にはゲストに魏監督、本作の共演者らを迎え、夢だった台湾アリーナコンサートを実現した。


Prev 1 2