セルビアの山奥のある村に、おじいさんと孫のツァーネが暮らしておりました。死期を悟り、一人残される孫を案じたおじいさんは、ある日ツァーネに言いました。「町へ行って牛を売り、そのお金で聖ニコラスのイコンを買いなさい。それと自分のためのお土産を買うのも忘れぬように。そして、お嫁さんを連れて帰って来くるのじゃ」と。ツァーネはおじいさんとの約束を果たすため、牛のツヴェトカを連れて町へ出かけてゆきましたとさーー。
『パパは出張中』と『アンダー・グラウンド』で二度のカンヌ映画祭パルムドールを受賞したエミール・クストリッツァの最新作は、日本の昔話に着想を得たという『ウェディング・ベルを鳴らせ!』。潜望鏡や落とし穴などをこしらえる面白発明家であり、宗教心の厚い祖父ジヴォインと、そろそろ性の目覚めにムズムズし始めた孫のツァーネ(前作『ブルー・ジプシー』でクストリッツァに発掘されたウロシュ・ミロヴァノヴィッチ)。そして大地のような官能を振り撒いてジヴォインに結婚を迫る女教師ボサ。『ライフ・イズ・ミラクル』のロケ地だったセルビアののどかな丘陵地帯を気に入り、この地に移り住んだ鬼才は、そこでの純朴な農民たちとの暮らしの中で胸いっぱいに吸い込んだ新鮮な息吹を愛すべきキャラクターに反映させている。
一方、ツァーネがイニシエーションを受ける初めての都会には、高層ビルが立ち並び、マフィアやディペロッパーらが暗躍する過酷な資本主義世界。そんな都会でもツァーネを助けてくれる兄弟が現われる。カウボーイ・ブーツを履いた破天荒な凸凹兄弟は、セルジオ・レオーネを敬愛する鬼才がマカロニ・ウェスタンへのオマージュをこめて描いた道化者キャラだ。兄弟のうち、大入道さながらのトプズを演じるのは、鬼才の息子で「エミール・クストリッツァ&ノー・スモーキング・オーケストラ」のメンバーでもあるストリボル・クストリッツァ。本作では怪演に加え、サントラも担当して多彩なところを見せている。そしてツァーネが一目惚れの恋に落ちるのが女学生のヤスナ。田舎育ちのツァーネが彼女の気を引こうとプレゼントするのが、花や首飾りではなく、素朴にもパンだったりするのだが、そんな微笑ましい好意を気持ちよく汲み取れる心の持ち主である。そんな緑豊かなツァーネの故郷と呼応する透明感溢れるヤスナを演じる、新人マリヤ・ペトロニェヴィッチの美しさも印象的だ。







