ハリウッド世代とニューウェーブ映画
――一括りにできるかどうかは分りませんが、お二人も含めた若手監督たちの作品とニューウェーブの作品群の間に、ある種の世代論的な違いを見出すことは可能でしょうか。
トム 昨年ヒットした4本の映画とニューウェーブとの最大の違いは、物語の扱いについてでしょう。ニューウェーブが重視するのは、全体の雰囲気、その時代の状況を感じてほしいという欲求に思われます。ですから、かれらの物語には明確な始まりがなく、明確な終りもない。一方、僕らの世代の作品には起承転結がはっきりと存在しています。
ヨウチェ 映画の撮り方が、決定的に西洋的であるということは言えるでしょうね。僕らはハリウッド映画が好きだし、ニューウェーブと僕らの作品では通底するリズム感が明らかに異なる。それは、やっぱり世代なのかもしれません。良し悪しは別として、各時代を生きてきた人が影響を受けたものは違うわけですから。僕たちは“もともと”ハリウッド映画を観て育った世代。僕らがニューウェーブの真似をして、ああいった作風を目指したら、それは不自然な仕上がりになる気がします。
――意識的にニューウェーブから訣別したわけではない、という意味ですね。
ヨウチェ まあ、そういうことです。
――ちなみに、お二人がもっとも好きなハリウッド映画は何ですか。
ヨウチェ 『ショーシャンクの空』、『ゴッドファーザー』。あとはハリウッドではないですが『ニュー・シネマ・パラダイス』。一般の観客が受け入れやすい作りなのに、物語はハイクオリティーというところが共通点かな。
トム 沢山ありすぎて迷ってしまいますが、『マグノリア』は好きですね。あれは群像劇をネットワークとしてきちんと構成し、登場人物のいずれにも感情移入できるように計算されています。その手法は『九月に降る風』で意識的に採用しました。
――お二人は、ご自身が純粋な台湾映画の監督だという意識をお持ちですか? ハリウッドの影響という話もそうですが、トム・リン監督は、実際にアメリカに留学してらっしゃったし、チェン・ヨウチェ監督も第二言語としての日本語をお持ちです。純粋な台湾映画の作り手としての侯孝賢監督や、若手で言えば『海角七号』を撮った魏徳聖監督らとの作品の間に、個人差に基づいた文化意識の違いを感じることは?
ヨウチェ それはないですね。個人的経験の差を作品の文化意識の差として対比することは難しいですよ。
トム 僕も同感。それは作り手の好みの違いではないでしょうか。
――では、ニューウェーブからの影響という意味ではどうでしょう?
トム 自伝的なストーリーを物語に反映させた点でしょうね。侯孝賢監督の作品を例に挙げれば、『風櫃から来た少年』や『恋恋風塵』は、脚本家の呉念眞が本人の生い立ちを描いた作品です。
ヨウチェ 『童年往時—時の流れ』は監督本人の青春の話だしね。
――チェン・ヨウチェ監督はどうですか。
ヨウチェ 僕の場合は、トム君が言うような物語の作り方ではなく、写実性というところになるのかなあ。ストーリーを語るというよりも“ある状態”を語りたいという欲求が強くて。ちょっと面倒な言い方をすると、ニューシネマの監督たちは日本映画の影響を受けた写実性で、これは具体的には小津安二郎監督の影響が大きいとは思うのですが。僕は、日本映画の影響を受けたニューシネマの写実性に、ハリウッドの画面の動きやリズム感がミックスされてくるという……うーん、なんと言えばいいか……。
トム 僕が代わりに言いましょう(笑)。侯孝賢監督は、小津監督の影響を受けています。そして、小津監督の影響を受けた侯監督は、是枝裕和監督に影響を与えている。で、ここにいるチェン・ヨウチェは、その是枝監督の影響を受けているわけですから、これは日本の観客の皆さんには、彼の長編デビュー作『一年之初』を観てもらわなければないない、と。こういうことになるわけです(笑)。
ヨウチェ 勝手なこと言って(苦笑)。これは僕じゃなく、トム君の考えですからね。
――分っていますよ(笑)。ちなみに、侯孝賢監督はお好きですか。
ヨウチェ 『悲情城市』は大好きですね。時代の雰囲気と状況の密度が圧倒的!
――作品で描かれたような外省人と内省人との激烈な対立構造を現在、感じることは?
ヨウチェ あれほどの緊張感はありませんが、まったく消えてなくなったとも思いません。







